2025秋号「意外と知らない尿検査」

小学校の健康診断から実施されている尿検査は、誰もが受けたことのある最も手軽な検査のひとつといえるでしょう。検査自体はカップに採取するだけですが、その結果結果からはとてもたくさんの情報を受け取ることができるのだとか。今回は知っているようで知らなかった尿検査について、医療法人厚生会理事長の西山利正先生に伺いました。


ー尿検査はなぜ必要なのでしょうか。


国の労働安全衛生法では、企業は従業員に対して定期的に健康診断を行うことを義務付けています。そして定期健診では労働安全衛生規則第44条で定められた11の検査項目を実施しなければならないとされています。そのうちのひとつが尿検査です。この法律が制定された昭和47年当時から尿検査は必須の項目にあげられていますから、それだけ歴史と実績のある検査といえるのではないでしょうか。
腎臓には血液をろ過する働きがあります。全身を巡った血液は腎臓の糸球体というフィルターを通り、こし出された老廃物や不用物は尿管を通って膀胱に送られ、尿として排出されています。(図1)

もし腎臓や膀胱に何か異常があれば、尿に本来は含まれていないものが含まれていることがあります。それを検査することで体の状態を知ることができるんです。

法律上は、尿糖と尿たんぱくの有無を検査すればよいこととされていますが、尿潜血や尿ウロビリノーゲンなども一緒に測ることが多いです。これらは病気の発見に関わる非常に大切な項目になります。


ー1回のおしっこで、色々なことがわかるのですね


実際の検査では、一般的に尿検査用ストリップという細長い試験紙を使用します。試験紙はいくつもに色分けがされていて、ここは尿糖、ここは尿潜血というように場所ごとで何に反応するかが決まっています。この試験紙を皆さんの尿に数秒浸し、それぞれの色がどれだけ変化したかを人の目や機械で確認して尿の状態を判断します(図2)。
健診をやっているその場で結果はすぐに出ていることもあるんですね。最近は機械で分析する場合などもありますが、精度としてはそこまで違いはありません。異常があるかどうかは試験紙で十分に判断がつきます。

このように非常に簡単な検査のため、受けた本人は甘く見てしまいがちです。何なら医療関係者でも甘く見てしまっている。でも得られる情報は非常に多いですので、検査の結果に何らかの異常があれば、ぜひ気にするようにして欲しいですね(表1)。

ー尿検査で、まず注目すべき項目はなんでしょうか。


検査で一番引っかかりやすいのが尿潜血かと思います。尿潜血は何も異常がなくても+(プラス)になる人が多いからです。例えば、女性は生理にあたっていたら尿潜血が出てしまいます。生理中の経血と膀胱や腎臓からの出血は、通常の尿検査では見わけられません。生理の日は尿検査を受けられないという健診機関があるのはそのためです。それから、営業回りをしている人が歩き回ったあとに検査を受けても尿潜血は出てしまいます。よく歩いたり運動したりすると腎臓が揺れますので、その影響で潜血が出てしまうことがあるんです。以前、ある会社の健診で次々に尿潜血の陽性が出たことがありました。よく聞いてみれば、その前日がゴルフ大会だったそうで。おそらく皆がたくさん歩いていたから尿潜血が出たのでしょう。
そんな風に異常がなく尿潜血が出てしまうことは多いのですが、まれに病気が原因で尿潜血が出る場合があります。怖い順番にいうと、腎臓がんや膀胱がんで潜血が出ることがあります。
それから腎結核や膀胱結核。ほかには腎炎・膀胱炎といった炎症で潜血が出ることもあります。毎年尿潜血が出ているからといって、今回も大丈夫だろうと思って放置してしまうと、がんや結核を見逃すことにつながりかねません。だから検査で尿潜血が出た場合は、やはり気をつけた方がいいでしょう。一回だけならまだしも、続いて出るようであれば絶対に再検査に行くようにしてください。


ー尿検査でたんぱくが出たという話もよく聞きますが、これはどうでしょうか。


尿たんぱくも尿潜血と同じように、何も異常がなくてもたんぱくが下りる場合があります。特に男性の場合はトイレでおしっこが泡立つのを見たことがあるかもしれません。その1番の原因が、やっぱり運動になります。よくいわれる話ですが、軍隊が徒歩による訓練をしたあとに、宿舎に帰ってトイレに行くとみんなおしっこが泡立っていたそうです。行軍性のたんぱく尿と呼ばれたりもしますが、これは病気ではありません。たんぱくは分子量の大きいものが多いため、本来は腎臓のフィルターを通りにくいんです。だから病気によってフィルターが荒くなると尿に出てくるものなのですが、この場合は激しい運動で腎臓が揺れたため、刺激が与えられてたんぱくがもれ出てきたと考えられます。このほかに、子供の場合は40度くらいの高熱が続くとおしっこにたんぱくが出ることがあります。こうなると基本的には熱性疾患ではあるのですが、腎臓や膀胱に異常がなくてもたんぱくが出るひとつの例といえるでしょう。

では病気でたんぱくが出る場合は何かというと、まずは腎炎。なかでもIgA腎症は、腎臓の糸球体に免疫グロブリンというたんぱくが沈着して炎症を起こす病気です。子供のときに見つかることが多く、発症から20年後には約40%が末期腎不全に陥ると報告されている指定難病です。初期は自覚症状がほとんどないので、健診で見つけることが非常に重要になってきます。同じように有名なのは、膠原病の全身エリテマトーデス(SLE)。患者の9割を占めるのが妊娠可能な年齢の女性で、免疫機能の異常により自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気です。ほかにも糖尿病でも糖尿病腎症が進むとたんぱくが出てきます。


ー糖尿病というと、尿糖も陽性になるということですよね?


尿糖というと、糖尿病というイメージがありますよね。ところが実は、おしっこに糖が出るというのは糖尿病の定義に入っていません。糖尿病の定義は空腹時血糖が126mg/dL以上とされていて、おしっこに糖がもれ出るのは一般に血糖が170mg/dLを超えたらといわれています。尿糖が出る代表的な疾患といえば糖尿病になりますが、糖尿病は尿糖で判断するのではないということは知っておくといいでしょう。
一方で、血糖は正常なのに尿糖が出ることがあります。例えば食べ過ぎであったり、ストレスによって血糖が一時的に170mg/dLを超えてしまったとき。風邪をひいても体にストレスがかかりますから、尿糖が出てしまうことがあります。
糖尿病の薬でSGLT2阻害薬という、血糖が上がってきたら腎臓から尿中に糖を出させることで血糖を上げないようにする治療薬があるんです。非常に優秀な薬で、これを飲んでいる人は血糖は安定しますが尿糖は陽性になります。


ー陽性のほうがいい項目はありますか。


尿ウロビリノーゲンは他とちょっと違っていて、一般的に±(プラスマイナス)が正常といわれています。ではそれは何かというと、肝臓で作られたビリルビンという物質が腸の中で代謝されてウロビリノーゲンになるんです。大半のウロビリノーゲンは便と一緒に排出されますが、ごく一部はまた腸で吸収されて、血管を通って腎臓から尿に出されるという流れになります。健康な人でもウロビリノーゲンは少しだけ出ているものですが、肝機能が落ちているときには陽性になります。病気がなくてもウロビリノーゲンが陽性になることがあります。それは何かというと疲労です。例えば前日に徹夜していたとか、一日中営業で暑いなか駆け巡ったというときにウロビリノーゲンがたくさん出てきます。風邪などで体力が落ちても同様です。ウロビリノーゲンが陽性の人に、問診であなた今疲れていませんかと聞くと頷く人は多いですよ。このように尿検査は体調を知るのにも有用で、体のストレスに反応して悪い結果が出てしまうケースが割とあります。だから健康診断の直前になってから急に頑張って運動をはじめても、かえって異常値が出てしまうことになりかねませんので気をつけてくださいね。


ー耳が痛いです(笑)。ところで尿検査が再検査となった場合は、何科にかかればいいでしょうか。


尿検査の再検査を受けるのであれば、尿潜血や尿たんぱくが陽性の場合は、腎臓を専門にしている内科をお勧めします。ただ一般の内科で腎臓を専門にしているところは数が少ないですから。そうでなければ泌尿器科がいいと思います。これまでご説明した以外にも、尿検査では尿比重や尿沈渣(図3)など様々な数値が測れるのですが、やはり専門でみている先生の方が細かく状態を読み取れます。

尿検査というのは非常に簡単な検査だけれども、実は腎臓や膀胱のごく初期の病気を見つけるのに便利な場合が多いんですね。実際に再検査をしても何もないことがほとんどでしょう。だからといって1年前に問題がなかったとしても、翌年の検査でも引っ掛かったのなら、やはり再検査はした方がいいです。膀胱がんや腎臓がんというのは1年経ったらその間に出る可能性があります。膀胱がんなどは昔に比べて治療法も進んでいますので、早期に見つけさえすれば膀胱鏡を使ってお腹を切ることなく治せるようになっていますよ。(表2)