超音波検査はメジャーな検査方法のひとつで、身体のさまざまな部位を安全に調べることができます。幅広い病気の診断のため、そしてまだ具体的な症状として現れていない「未病」のうちに対策するために有効なこの検査について、医療法人厚生会理事長・厚生会クリニック院長の木戸口公一先生にお話を伺いました。
ー本日はよろしくお願いします。今回は超音波検査についてお話を伺えればと思います。
まず、自分の経験からお話します。初めて超音波検査をしたのは昭和46年で、そのときは「単純なものだな」と思いました(笑)。私は呼吸器等が専門の科だったので、それ以降はあまり超音波は触らなかったのですが、昭和56年に大阪府立母子保健総合医療センターで胎児超音波検査と心臓超音波を見て驚きましたね。「こんなに解像度が高く、胎児や心臓の動きが見えるのか」と。
それから今に至るまで、超音波検査はどんどん技術が改良され、幅広く用いられています。健診の場とはまた違いますが、医療の場では四十肩や虫垂炎も超音波で調べる時代ですから。昔だと考えられなかったですね。
ー超音波で体内が見られるのは、どのような仕組みなのでしょうか。
超音波は、光・電波・放射線などの電磁波ではなく、あくまで「音」です。周波数が高く耳に聞こえる範囲ではないので、なかなか実感はできないのですが。検査の際には、音楽を聴くようなスピーカーではなく、プローブ(※1)という専用の器具をからだの表面に当てて超音波を発します。そして、体内組織にぶつかって跳ね返ってくる音(エコー)の差(反射強度・周波数)を測定することで、画像として映し出します。いわゆる潜水艦や魚群探知機で使われているもの(ソナー)と理屈は同じです。
※1 プローブ
超音波を送受信する探触子。セクタ型、リニア型、コンベックス型などの種類があり、部位や目的によって使い分けられる。
ー超音波検査の特徴はどのような点でしょうか。
まず、リアルタイムで動きが見えること。これが一番大きいですね。例えば心臓超音波なら、心臓の動き、弁の動き、心筋の収縮、微細な血液の流れ、これらがすべてわかります。レントゲン(X線)で撮影するなら「息止めて~!(カシャ)」で写した一瞬を切り取るだけですからね。もしレントゲンでずっと動きをみようと思うと、透視被曝量(※2)もかなりのものになってしまいます。
画像を映し出すのに使うエネルギーが有害なものではないと考えられていることも大きいです。耳に聞こえない音波を当てるだけなので痛くも痒くもないですし、検査にあたって大げさな準備も必要ありません。お子さんや妊娠されている人も安心して受診できます。
また、周波数の調整、画像表示方法の使い分け、最新のソフトウェア(情報処理・解析を行う)など、検査の目的に応じて適した機能(※3)を選ぶことができるのも超音波検査ならではです。
以上のような特徴から、いろいろある画像診断(※4)の中でも多く用いられ、成果を上げています。
※2 レントゲン(X線)の被曝量
通常の健診で受けるX線の量は、人体に影響を及ぼすにはほど遠いほど少ないので、心配する必要はない
※3 検査の目的に応じて機能を選択受診した超音波を画像としてどう表示するかで、モードを選択できる。Bモード・Mモード・ドプラモード(カラードプラ・パルスドプラ)など
※4 画像診断
身体に傷をつけず、画像を映して診断する検査のこと。放射線(X線・CT)、超音波、電磁波(MRI)、各種内視鏡などが挙げられる。
ーでは、超音波検査の弱点はあるのでしょうか。
これは超音波検査だけに当てはまることではありませんが、検査技師の技術や、どこまで見ようかという意図の違い、さらに丁寧に見ようという意識の有無によって結果には差が生まれます。非常に優れた検査ですが、超音波をちょっと当てただけですぐに心臓全体が見える、というものではないのです。検査を行う側の力量や、どこを重点的に見るべきかという判断が大事になります。
また、超音波は骨や空気を通しにくいので、頭や背中など骨に覆われた部位には向いていませんし、空気が多い臓器(肺・腸など)も苦手にしています。空気の影響をできるだけ減らすため、検査時には皮膚にゼリーを塗ってプローブと身体を密着させます。
あと、弱点がもうひとつありました。超音波は定量的な検査を行うものではないということです。血液検査なら数字で去年と今年の変化がわかるところ、超音波は「去年より今年のほうがより光っているから悪化している」とは言えないわけです。まあ技術的には不可能ではないのですが、超音波検査は量を測るのではなく異常の有無を発見するものなので、目的が違うのですね。
ー超音波検査は、部位ごとに種類が分かれていますね。(別表)
そうですね。まず、もっともポピュラーだといえるのが腹部超音波検査で、健診の場でも多く実施されます。腹部にはたくさんの臓器があって、それぞれ複雑に重なり合って並んでいます。なので、超音波によってしっかり分析するのが大事になってきます。
腹部超音波には上腹部と下腹部があって(※5)、メインは上腹部の検査です。上腹部は肝臓、胆道(胆管・胆嚢)、膵臓、それと腎臓や脾臓を主に見ます。下腹部は女性が中心ですが、主に子宮と左右の卵巣、膀胱、それに男性の場合は前立腺です。下腹部も、要請があれば私どもでも行っています。
音波は水中をよく伝わるので、下腹部・膀胱を見るときは尿を溜めておいてもらっています(※6)。また、食後は胆嚢が収縮していて壁の肥厚をきたし、胆石がわかりにくくなるので、絶食が原則となります。
※5 上腹部と下腹部
検査としては同じ腹部超音波だが、保険収載の問題で別々に扱われている。
※6 下腹部超音波
最近の婦人科検診では経膣プローブが使われることが多く、膀胱充満の必要はない。
腹部超音波で発見できるのはのう胞やがんを含む腫瘍などですが、中でも脂肪肝は非常にはっきりと見えますね。脂肪は音波を反射するので、砂粒がキラキラと光るように映し出されます。いまや、脂肪肝は男性の場合3~4割の人に見つかっているのです。
膵がんの検査にも超音波は必須です。臓器の位置的に見えづらいので、発見されたときにはかなり進行しているケースも多いです。例えば同じのう胞が肝臓にあったとしても「ありますね」くらいの反応なのですが、膵臓にあった場合は「早急に詳しく調べましょう」となります。それほど、膵臓の検査では簡単な所見でも精査に努める必要があるといえるでしょう。
また、あまり知られていないのですが、腹部超音波で女性の肝臓に腫瘍らしきものが発見された場合、限局性結節性過形成(FNH)(※7)の可能性もあります。低用量ピルを服用している人に発症するケースがありますので、当てはまる女性は知っておいてほしいですね。婦人科で説明を受けることは少ないでしょうから。
※7 限局性結節性過形成(FNH)
肝臓の良性腫瘍のひとつで、無症状のため超音波検査で偶然発見されるケースが多い。ピル(経口避妊薬)を内服している人に多く発生するとされている。
ー他の部位はいかがでしょうか。
検査を行う頻度としては、労災二次健康診断(※8)で実施される頚動脈超音波検査が多いかもしれません。基本的には、動脈硬化の進行具合を調べるために実施されるものです。血管は内膜・中膜・外膜の3層になっているのですが、内膜と中膜の厚さが1mmを超えているかどうかを調べます(※9)。高血圧や動脈硬化になると内膜が分厚くなってくるので、そこが判断基準になるわけですね。
また、血管内のプラークの有無も診断できます。高血圧や糖尿病などの刺激で組織が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって反応が起こり、おかゆのような垢(プラーク)が溜まります。これが成長して血液の流れをふさぐと、血小板が集まって血栓ができてしまうのです。この血栓がはがれて脳へと流れた場合、脳梗塞の原因となります。
なぜ頚動脈で行うかというと、動脈が皮膚の表面に近いおかげでプローブを当てるとすぐに血管の中がのぞけるのですね。同様の部位としては、膝窩動脈(ひざの裏)も当てはまります。膝窩動脈は末梢動脈疾患(PAD)(※10)やと例えば糖尿病の動脈血流障碍を診断するのに多く実施されていて、これからはますます重要な検査の一つとなるでしょう。
※8 労災二次健康診断
定期健康診断で肥満・脂質異常症・高血圧・高血糖の4項目すべての数値に異常があった人を対象にして行われる健診。
※9 内膜中膜複合体厚(IMT)
内膜と中膜の厚さを合計したもので、頚動脈超音波検査の重要な指標。1.1mm以上が異常とされる。
※10 末梢動脈疾患(PAD)
足の血管に動脈硬化が起こり、足に十分な血液が流れなくなることで発症する疾患。歩行時に足がしびれる、痛い、冷たいなどの症状が現れる。
ー心臓超音波検査はどのような目的で行われますか。
それを説明するには、心臓病変の進行とあわせて考えるとわかりやすいと思います。
心臓病変(ここでは心不全(※11))は、次のような憎悪の経過をたどります(別図)。まずは「代謝異常」。これは検査をしてもなかなか捉えられるものではなく、負荷をかけたときに偶然現れるといってもよいものです。前回(マイヘルスvol.8)でお話ししたNT-proBNP(※12)でなんとか見つけられるかもしれません。
次に、拡張障碍と収縮障碍。心不全は従来、左心室の収縮力が低下する「収縮障碍」が主だとされてきました。超音波検査でも、拡張期と比べて何パーセント収縮しているかという差を調べていました。その差が小さいと心不全が起きるというわけです。しかし、近年は左心室が硬く広がりにくくなる「拡張障碍」が心不全の初期に現れることがわかってきました。収縮して血液を送り出す機能の低下ではなく、拡張して血液を吸い込む機能が低下しているということです。これを調べるには超音波で僧帽弁の血流の速さ、パターンを見る必要があるのです。
その段階を過ぎると「心電図異常」が出て、さらに進行してようやく息切れ・むくみなどの「自覚症状」として現れます。もちろん、他の病気による影響や加齢による変化もあるので、すべてのケースでこの経過をたどるわけではありませんが。
このように、心臓超音波は心臓の機能の低下や障碍を発見するのに非常に有効な手立てだといえるでしょう。
※11 心不全
心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態を指す。
※12 NT-proBNP
血中のBNP濃度を測定する検査。隠れた心不全のリスクを早期に発見することができる。
ー乳房超音波検査についてはどうでしょうか。
以前にも(マイヘルスvol.4)解説したとは思いますが、乳がんの発見に非常に有効なマンモグラフィにも欠点があります。日本人に多い高密度乳房(※13)の場合、マンモグラフィでは病変が見えづらいのですが、乳房超音波はすべて細かく映し出すためその欠点を補うことができます。
しかし、マンモグラフィもまた超音波では鑑別しづらいがんに対して有効ですので、医師と相談した上で両方組み合わせて受けるのが望ましいでしょう。厚生労働省の指針ではまだ「視触診およびマンモグラフィ」のみが推奨されていますが、超音波が認められていないのはエビデンスが少ないだけで、どんどんエビデンスは固まっています。
※13 高密度乳房
通常より乳腺組織が多く存在している(乳腺密度が高い)乳房のこと。比較的若い世代に多い。異常ではないが、マンモグラフィで病変が発見しづらいケースがある。
ー超音波検査では、検査の主目的以外の部位の異常が発見できることはあるのでしょうか。
ありますね。例えば頚動脈エコーだと、甲状腺も同時に見られるので異常が発見できる場合があります。
いろいろな議論がされていますけども、目的や契約内容とは異なる箇所も診断できる場合、どうするのかという問題があります。どうしてもお金の問題がつきまとうので複雑なのですが、やはり何らかの異常が見つかったのであれば、患者に知らせるのが良心的な判断だと僕は思いますね。
腹部エコーでも、先ほど申し上げた臓器のほかに、丁寧に走査していくと腹部大動脈も見えるのです。このようなときは、たとえ臓器の診断が主だとしても見ようとしたほうがいいと思いますし、病変が見つかればカルテに記載して伝えるべきだという流れになってきています。当クリニックの場合も、腹部超音波のときは必ず大動脈も見るように指導しています。
ーまとめとして、健康な生活のために超音波検査がどう役に立つかを教えてください。
私達が行う検査にはそれぞれの特性があり、同時に限界があります。例えば、脂肪肝は血液検査でもちろんわかるのですが、超音波でそれを補完することができる。もしくは超音波で何らかの病変を発見し、血液検査でその程度を知ることができる。というように、それぞれの検査の特性を活かしながら診断を進めていくべきです。
「既病」と「未病」という考え方がありますね。既病はすでに病気と診断されて症状が出ている状態、未病は病気になる前、もしくはごく初期で異常に気づかないような状態のことです。できれば、皆さんには症状が出ていないような早い段階(未病)で注意を与え、生活習慣を改善していってもらいたいのです。それが私達の役割であり、使命です。
超音波検査は、気軽に負担なく受診できることから、症状がほとんど出ていない未病の段階に非常に適した検査だといえるでしょう。自分にとっての受診のメリットを医師と相談した上で、ぜひ定期的に受けるようにしていただければと思います。
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