2018春号「だからこそ知っておきたいアレルギーのこと」

「鼻水が出るなあ。もうスギ花粉が飛びはじめてる」
「子どもが軽いエビアレルギーだから、注意しないと…」
こんなふうに、多くの人にとって身近の存在であるアレルギー。しかし、正しい知識を持っていないと、危険な事態になりかねません。重症化のおそれがある事故を遠ざけ、もっと快適な毎日を過ごすことができるよう、医療法人厚生会理事長・厚生会クリニック院長の木戸口公一先生と一緒に学んでみましょう!


実際、アレルギーってなに?


ー本日はよろしくお願いします。ぼんやりとはわかっているのですが、アレルギーはどうやって起こるのでしょうか。


人間のからだは、生まれながらに自分以外の「異物」に対する抵抗力(免疫)を持っています。これは、通常自分にとって不利益なものに対してのみ反応するのですが、それほど不利益でないのに反応してしまうことがあるのです。

卵や牛乳、果物、魚・肉類など、普通はおいしく食べられるもの。また、花粉やハウスダスト、ペットの毛など、本来そこまで害はないもの。それらに免疫機構が敏感に反応してヒスタミン等(*1)を分泌し、症状が現れることをアレルギー反応といいます。
症状を引き起こすもとになる物質を「アレルゲン」といいますが、この量が多いと命にかかわるケースがある。数年前に、学校の給食を食べて女の子が亡くなったことがありました。(*2)

*1 ヒスタミン等
ヒスタミンやロイコトリエンといった科学伝達物質。アレルゲンと血液中に存在する「IgE」というたんぱく質が結合することでこれらの物質が分泌され、症状を引き起こす。

*2 食物アレルギーによる死亡事故
平成24年12月、東京都調布市の小学校において、乳製品にアレルギーを持つ女子児童が誤ってチーズ入りチヂミを食べたことにより起きた。


ーアレルギーの症状はどのようなものがあるのでしょうか。


おおよそは、アレルゲンが侵入する粘膜の位置に対応しています。ご存知のように、花粉症の場合は鼻やのど、目がそれにあたるので、くしゃみや鼻水、目のかゆみが症状としてあらわれます。同様に、食物アレルギーだと腹痛・下痢・吐き気、またかゆみ・じんましんの形で皮膚に出てくる場合もあります。

それを防ぐために、花粉症であればマスクをしたり、特定の食物を避けたりという対策が必要になるわけですね。クミタス(*3)というウェブサイトでは、特定のアレルゲンを含まない食品を探すことができるので、お悩みの方は一度見てみるとよいでしょう。


-他に、気をつける点はありますか?


原因としてコムギアレルギーが一番多いのですが、運動が引き金になって症状が出てくることがあります。(*4)例えばパンを食べてスポーツジムに出かけたとします。食べたときは何もなかったのに、運動をした後に息苦しくなる。手当てが遅れると、救急車で運ばれるケースもあります。遅れて症状が出るので、本人も医師も気づきづらいわけです。同様の経験がある人は気をつけてほしいですね。元は食べ物のアレルギーです。


花粉症はどうにもできないの?

ーアレルギーの中でも代表的なものは花粉症ですね。


そうですね。花粉症はアレルギーの中でも季節が決まっているという特徴があります。晩冬から春にかけて花粉が舞うハンノキ・スギ・ヒノキ、初夏から広がっていくイネ科の植物(カモガヤ・オオアワガエリ)、そして秋に出てくるブタクサ・ヨモギなどが有名です。ほぼオールシーズン、何らかの花粉が飛んでいるといっても過言ではないでしょうか。
また具合が悪いことには、「私はスギ」「私はヨモギ」というのではなく、花粉症の人は多くの場合複数の花粉に反応してしまうのです。花粉症による経済的損失は膨大な金額になる(*5)ともいわれています。私も花粉症ですけど、診療してても鼻水が出そうになることがある(笑)。そういう不都合がいろんな人、いろんな場面で起こるのですね。

*3 クミタス
食物アレルギーの人が除去食・代替食を探して購入できるウェブサイト。
http://www.kumitasu.com/

*4 運動誘発性アナフィラキシー運動が引き金となって、アレルギーの重い症状(じんましん・呼吸困難・血圧低下・意識消失など)が出現すること。必ずしも激しい運動でなくても、起きることがある。*5 花粉症による経済的損失3000万人以上を推定される患者数と、それぞれの医療費負担、個人消費の落ち込み、仕事の能率低下などを考えると、損失は数千億円になると試算するシンクタンクも。
■その他の用語説明
アナフィラキシー
アレルゲンが体内に侵入して、極めて短時間のうちに全身に起こる強烈なアレルギー反応。ハチ毒や食物アレルギーなどに多く、命にかかわることがある。

エピペン
アナフィラキシーの緊急処置用に自己注射が認められている携帯エピネフリン注射器薬。要処方箋。


ー治療方法はどのようなものがありますか。


対症療法としては、レーザーを照射する外科手術もありますが、内服薬による治療が一般的です。代表的なものだと抗ヒスタミン薬(*6)が挙げられますが、これはヒスタミンが神経や血管に作用するのをブロックすることで、症状を抑えられます。こうした薬は、症状が出てからではなく、花粉が飛びはじめる前から予防的に使用しましょう。からだが花粉に反応して敏感になる前に、対策することが重要なのですね。その他の治療法では、徐々に花粉にからだを慣らしていく舌下免疫療法(*7)というものもあります。時間はかかりますが、症状を根本的に抑えられる事例もあり、効果が実証されています。


ー花粉症と他のアレルギーとは、関連はあるのでしょうか。


実は関連するケースがあります。口腔アレルギー症候群(OAS)というのですが、果物や野菜に含まれるアレルゲンが花粉症のものと似ているため、口の周りにかゆみなどの症状が現れます。例えば、トマトを食べて口がかゆくなったりする人は、スギ花粉にも反応することがあるわけです。

アレルギーは検査でわかる?

ー自分のアレルギーを知りたいときは、どういった検査をすればよいのでしょうか。


アレルゲンを皮膚に貼り付けたり、皮内反応をみたりといろいろな検査がありますが、今は採血だけで自分が反応するアレルゲンを調べることができます。健康診断のオプション検査として申し込むだけで、一度に30項目以上のアレルゲンについて調べることができ、金額も1万円前後なので非常に手軽に受けられます。検査結果から予防的処置をとることもできるし、症状がアレルギーによるものかそうでないのかを鑑別できるのもすばらしいですね。自分のからだを知ることができるのです。
実際には、アレルギー反応を示しても症状としては出てこないケースもあるのですが、それでも自分のアレルギーを知っておくことは非常に大切だと思います。


*6 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は第一世代と第二世代に分かれている。ほとんどの市販品が含まれる第一世代は、即効性に優れているが眠気などの副作用が問題視されている。医療機関で処方される第二世代は副作用が少ないため、自動車の運転や精密作業を行う人はこちらが推奨される。

*7 舌下免疫療法
アレルゲンが含まれた治療薬を毎日舌の下に置くことで、からだを慣らして治療していく方法。スギ花粉症・ダニアレルギー性鼻炎において治療が可能で、保険も適応される。


ー検査を受けるべき年齢はありますか?


年齢に関係なくすべての人に受けてほしいですね。以前に検査を受けていても、それからある程度月日が経っているのであれば、再度受けるべきです。
「アレルギーマーチ(*8)」といいますが、例えば小さい頃に牛乳を飲んでアトピーが出た子は、

成長とともなって別のアレルギー疾患を発症してくることがあります。また、大人になっても日々さらされている環境やいろいろな要因でアレルギー反応(感作状態)は変わりますので、子ども・大人にかかわらず受診していただければと思います。


安全で快適な生活のために

ー最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いいたします。


アレルギーの症状は医師でさえも判断しづらい場合があり、なかなか厄介なものです。アレルギー検査を受けることで、今まで不思議に思っていた不調がアレルギーによるものだったとわかることもありますし、気づかなかったけど実はこんなアレルギーだったと判明することもあります。

結果がわかれば、「そろそろ花粉が飛びはじめるからマスクをつけよう」「ハウスダストがたまるまえに掃除しよう」「このメニュー、弱い食材が入ってるからやめておこう」というように、事前に対策できます。生体の防御反応としてのアレルギーを正しく理解して、自分のアレルゲンを避けることによって、生活がより快適になるのです。
「自分は関係ない」と思っている人も、ぜひ一生に一度…といわず、複数回検査を受けましょう!


*8 アレルギーマーチ
アレルギーになりやすい子どもが成長していく過程で、さまざまなアレルギー疾患にかかっていく様子を例えたもの。アトピー以外にもぜん息や花粉症を先に発症したり、低年齢から発症したりする傾向がある。